男爵の称号

バロンケント 1957年発売 特種東海製紙
ケント紙で「透かし」がついている珍しい紙だ。一番薄いもので135kg、厚物は258kgなので「透かし」と言うよりは刻印だ。(実際透かしとは呼ばないかもしれない)。ケント紙は...と言うより白で平らな紙は見分けにくく紙を特定することは難しい。お客様から探して欲しいと渡された紙にBARON KENTの刻印が入っていると、お客様に説明しやすくてありがたい。いっそ紙には全部名前の透かしが入っていれば良いのに、と思ったこともあるが、それだと私達紙屋の存在価値があまりないのでやっぱり困る。
この刻印は紙の端にあり、文字の部分を切り落としても残りの大きさが四六判になるように設定されている。断裁の時には、BARON KENTの文字を残すか切り落とすかお客様に尋ねる。あまり他にはない珍しい物なので文字を残したままお届けしたいと私は思うのだが、案外あっさり「切り落としてください」と言われることが多い。
バロンケントの「バロン」は男爵のこと、競うように白い物が多いケント紙の中にあって威厳と風格のある少し生成りのケントだ。印刷よりは画材として使われることが多く、たくさんの芸術家が見て、触れて、描く。芸術家たちのきびしい目に耐えられる高いクォリティーはまさしく男爵の称号にふさわしい。